のんびり気ままにGOC6攻略中。
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「左門! お前、迷ってただろ!」 「あっ、藤内! 迷ってないぞ!」 土埃と葉っぱまみれの左門が茂みから出てきたのを見かけた藤内がまず第一に上げたのはその声だった。そしてそれに対し左門は即座に否定する。堂々と胸を張って。 「じゃあお前、どこに行くつもりだったんだよ?」 「図書室に本を返しに!」 「……図書室は反対方向……」 尋ねた返信に藤内はがっくりと肩を落とす。だいたい、図書室は廊下をたどればいいというのに何故茂みから出てくるのだと突っ込みたい。作兵衛なら即座に切れているだろうなぁとぼんやりと思う。 そう、遠い目をしている藤内に首を傾げつつ、左門はじゃあ私は図書室へ行くぞと手を振って右へ曲がって行った。 「ちょ、おいこら! そっちじゃないって!」 図書室への道は左の廊下だ。小柄な体の襟首を引っつかむ。 「そうだったか?」 「そうだよ。……私も図書室に用事があるから、一緒に行こう」 ため息混じりに藤内が言うと、左門はぱっと明るく破顔する。 「おう!」 裏表がなく、決断力があるのはいい。だが、ありすぎてしかも方向音痴だなんて、かなりの困り者だ。しかし、憎めないのはやはりその一本気な性格のせいだろう。 藤内は頭をかき、小さくため息をつきつつ、既に前を歩き始めた左門を見た。 「……って、ちょっと待った。お前のその格好じゃ図書委員に怒られるぞ。中在家先輩がいたら入らせてももらえない」 図書委員としての仕事に真面目な六年の委員長を思い出す。今の左門は薄汚れていて、とても気軽に本を返しには行けない姿だ。 「じゃあ一度着替えてくるか!」 「風呂に入った方がいいかもしれないけど、その間に返却時間過ぎそうだし、井戸で顔洗ってこう」 「そうする」 三年長屋に戻るのは、一緒に藤内がいたために左門は迷わなかった。素早く着替えて長屋の外にある井戸で顔を洗う。 「髪もぼっさぼさだなぁ……櫛だけでも通すか」 「別にいいぞ、手櫛で十分だし、頭巾被れば取りあえずは大丈夫だろ」 「それはいけないよー」 「へっ?」 不意に聞こえた声に二人は揃って振り返る。見れば何故か三年長屋の廊下に紫色の制服の、四年生が一人立っていた。 「あ、えーっと、斉藤先輩」 一瞬誰だろうと考えてから、藤内は思い出した。この間四年に編入してきたという、本来は髪結いだと言う変わり者の生徒だ。 「うん、いきなり声かけてごめんね。でも髪をそのままにしておくのはいけないよ」 にこにこと人当たりの良さそうな笑顔と声でタカ丸が二人の側へ歩いてきた。 「え、いいですよ、これくらい」 編入生で、ほとんど話したことがないとはいえ、四年ということに、左門は少し警戒していた。覗き込んでくるタカ丸に僅かに身を引きながら渋い顔をする。 「駄目。髪をボサボサのままにしておくなんて見過ごせないなぁ」 「ひっ」 いきなり両肩をがっしりと掴まれ、その有無を言わせぬ力の強さにぎょっとする。改めて顔を見れば、相変わらずいい笑顔でいたが、それには反論を許さない凄みが追加されていた。側にいた藤内も同じく冷や汗で硬直していた。 「道具持っているし、僕が整えてあげるよ。ね?」 二人は頷くしかなかった。 長屋廊下の端に座らされ、左門は大人しくタカ丸に髪を預けた。タカ丸は上機嫌で鼻歌交じりに左門のボサボサになってしまった髪を櫛ですく。隣で何故か正座をしながら藤内はその様子を見守っていた。 「へぇ、埃とか葉っぱとかいっぱいついてて凄く傷んでる風に見えたけど、結構綺麗なんだね、君の髪」 「そうですか?」 多少櫛に引っ掛かるが、絡まっているところを焦らず解いてやれば、意外にもするすると櫛通りはいい。枝毛もほとんどなく真っ直ぐだ。 タカ丸は傷んだ髪を綺麗に整えて行く過程も好きだが、元から整えてある髪に触れるのも好きだ。丁寧に気を使っていると思われる様子が、まさに手に取るように分かる。 「うん。何かしてるの?」 「いいえ、特にはしてません。洗って拭いて櫛で梳くだけです」 「へぇ、じゃあ栄養がいいのかな。何でもよく食べる方?」 「はい! お残しは忍者としていけませんから! 出されたものは全部平らげる! 手に取ったものは責任持って食べる! 贅沢なんて言ってはいけないですから!」 もともと好き嫌いはなかったが、この学園に入ってからなおそうなった。そして会計委員になってからは更にそれに拍車がかかっている。 「なるほどね~、えらいなぁ、左門君」 「当たり前のことです!」 「あはは、そうだねぇ」 力説をする左門にタカ丸は微笑ましさを覚えて笑う。薄汚れていた髪も綺麗になって気持ちがいいのだ。左門も思っていたよりも穏やかで話しやすいタカ丸に少し警戒を解いたようだった。 「でも、ふふ、髪はその人の様子を表すのだけれど、左門君の髪は左門君と同じく真っ直ぐだね」 「過ぎるのも困るんですが……」 藤内が少々げんなりする様子で零す。左門の実態をよく知らないタカ丸は軽く笑うだけだった。 「母上に似たんだと思います。私の母上も髪の真っ直ぐな方でした!」 「そうなんだ。お母様似なんだ。じゃあ、左門君のお母様も、左門君と同じように真っ直ぐな方なのかな」 「はい!」 「え」 その言葉に藤内は、思わず左門が女装した姿を思い浮かべてしまった。いや違う、性格が似ているのかと先輩は聞いたんだと慌てて首を振って想像を打ち消そうとする。しかしどうしても浮かんでくるのは左門が女装した姿だけだった。 「竹を割ったような性格だと父上が言ってました。それにとても強くて、私の自慢です!」 胸を張り誇らしげに言う姿に、タカ丸は左門の髪を結い上げながら頷く。 「………………」 藤内も、その姿は微笑ましいと思いつつも、普段の竹を割りすぎな左門の行動は如何なものだろうと思う。嫌いでないだけにその行動が困るのだ。もっとも、一番被害を被っているのは同室の作兵衛だ。 「お母様が好きなんだねぇ。じゃあ、お母様譲りの髪ももう少し手入れしてあげてね。はい、できたよ」 「有難うございます!」 紐で整えると、最後にしっかり髪の事を釘打ちをして手を離す。左門は地に下りると振り返って後ろのタカ丸に頭を下げた。 「それじゃあね~」 そういってのほほんとした空気を振りまいたまま、タカ丸は三年長屋を後にした。 「………………」 その後ろ姿を見送りつつ、藤内は疑問に思っていた。 『……何であの人、三年長屋にいたんだろう……』 「藤内、藤内!」 「へっ?」 肩を揺さぶられ、我に返る。左門が首をかしげながら藤内を見上げていた。 「どうした藤内、ぼーっとして。さぁ、図書室に行こう、しまってしまうぞ」 「あ、ああ、そうだった、行こう」 「おう!」 前を歩くくせのない髪が、歩く動きにあわせて揺れる。まるで凄まじい決断力で行き先を切り替えている本人を表しているようにも見える。けれども。 「ん? どうした?」 追いついて横に並んでから、何となくその髪を触ってみた。指に絡まらずするりと滑る。心地はよい。 真っ直ぐすぎるが故に正面からぶつかることもあるし、心を曲げないがために苛立つことも腹立たしいこともある。けれども、それがない左門は、左門ではないとも思う。己が信じた方向へ突き進む。曲げる事をしない気性の強さ。それが藤内の知る神埼左門だ。友人で、仲間で、戦友の。方向音痴だけは切に直してほしいが。 「……いや、そういや思い出したんだけど、あの斉藤先輩って、凄く髪にこだわりがあって、傷んだままにしてる人に容赦ないんだってさ。土井先生相手に、怒鳴りつけて髪をむしったとかって」 「え」 「お前もあんまりほっといたらむしられるぞ」 「それはいやだなぁ…」 その呟きを聞いた後、はたと思い至った。もしかしてあの先輩は左門がボサボサになった髪をそのままにしていたからあんなところに突然現れたのだろうかと。 そうだとしたら、どれだけ耳がいいのか感覚が鋭敏なのか。 タカ丸に末恐ろしさを藤内は本気で覚えた。 「……とにかく! 今は本を返しに行こう、何冊あるんだ? まさか返却期間過ぎてないよな?」 「三冊! 実は今日までなんだ!」 「……それを早く言えよ! 中在家先輩に怒られるぞ!」 「おう! 急ごう!」 「って、そっちじゃない!! こっちだ左門!!」 ──────その後、本は無事に返せたが、廊下を走っていたのを教師に見つかり、説教されることとなった。 タカ丸は一年から三年までは名前で呼び、同学年からは苗字で呼ぶ、と言うことにしています。 左門の家族構成は詳しく決めておりませんが、母親が作中にあるとおり竹を割ったような方。すぱんとした男前。父親は気質は一緒だけれど包容力があるからどちらかと言えばどっしり構えた受身タイプ。兄弟は多い。仲はいいけど自己主張しないと食いっぱぐれる。 |
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「ただいま! 作兵衛、三之助、帰ったぞ!!」
すぱんと三年ろ組長屋の三人部屋の戸を勢いよく開けて入ってきたのは神崎左門だった。あちこち薄汚れ、髪も制服もぼさぼさのよれよれだったが、本人は至って元気だった。 中では同じく薄汚れた三之助と、その三之助を正座させて怒っている最中らしい作兵衛がいた。 「お、左門、お帰り」 「おう! 三之助! 久しぶり!」 突然の登場にも関わらず大して驚きもせず、三之助は手を上げていつものことのように挨拶を交わす。左門も同じように手を上げる。そして。 「……何がただいまだお帰りだ久しぶりだこの馬鹿野郎どもーーーーーーーーーー!!!」 そんな二人に作兵衛の雷が落ちた。 神埼左門と次屋三之助は忍術学園でも有名(?)な方向音痴コンビだ。神崎左門は決断力のある方向音痴、次屋三之助は無自覚な方向音痴。二人が道を教えるなど言語道断、二人に道を聞くなど自殺行為に等しいとすら言われている。 そして二人は時折、ふ、といなくなる。つい先ほどまでいたのにいつの間にか消えている。北へ向かうとすると南へ走り、西へ行こうとすれば東を目指す。周りはそれほどの方向音痴だということをよくよく分かっているのだが、気を付けているのだが、それでも二人は行方不明になることが多い。毎回探索隊がくまれる。裏山から裏々山まで駆け回る羽目になり、おかげで三年は、特にろ組は総じて体力があったりする。怪我の巧妙というものだろうか。 けれど下手をすると二人は数日帰ってこないことがある。それでも、数日後には何故か元気に帰ってくる。さ迷い歩いても、帰巣本能でもあるのか、学園に戻ってくる。おかげで二人の体力は委員会のこともあって三年とは思えぬ化け物並みだ。 だが、しかし。 「もーいやだ! お前ら、何度言ってもききやしねぇ!! 勝手にいなくなるなって、ちゃんとついてこいって言ってるのにほいほいほいほいほいほいどこにでも行きやがって!! この数日、どんだけ探したのか分かってんのか!! 馬鹿!! 阿呆!! 間抜け!! 人に心配ばっかりかけさすな!!」 同じ年で同じ組でさらに同じ部屋の富松作兵衛にとっては、頭痛と胃痛の種の塊でしかない。 「ご、ごめんなさい……」 二人とも正座して、かなりの剣幕で怒る同級生に頭を下げている。 「一日で見つかる場所にいるならまだしも、二日も三日もいなくなるような迷い方するなよ!! 好きで迷ってるんじゃないって分かってるけど、だったらもうちょっと迷わないように気をつけろよ!! おっ、俺が、昨日も、おとついも、この部屋で、一人で、どんだけ、ひっ」 最後はとうとう泣き混じりになりながら、作兵衛は二人に説教する。気持ちが昂ぶりすぎて涙が出てきたのだ。 「泣くなよ作兵衛ー」 「そうだ、泣くな! 男だろ!」 「誰のせいだ誰のーーーーーーーーーーーー!!!」 本日2度目の雷。 何だかんだと怒りながらも作兵衛は面倒見がいい。割り当てられた風呂の時間だと分かると、薄汚れた二人を連れて風呂へと向かう。 「あ、左門、三之助、お帰り」 途中で三年は組の浦風藤内と三反田数馬に出会う。勿論二人が行方不明だと知っていた数馬は作兵衛の後ろにいる二人の姿を見つけてほっとした。 「お前ら、また作兵衛を怒らせただろ。俺たちの部屋まで聞こえたぞ」 「いやー、申し訳ない」 藤内の呆れた声に左門がさすがにばつが悪そうに苦笑して頭をかく。作兵衛は未だ眉間に皺がよったままだ。 「孫兵は?」 「先に行ってるんじゃないか? 私たちも早く行こう。込んでくるし」 三之助の質問に数馬が答える。5人は連れ立って風呂へと向かった。 「しかしまぁよく何日も迷って帰ってこれるよな。これも忍者の勉強していたおかげか?普通だったらのたれ死んでるか山賊に襲われてるだろ」 「それが不思議と山賊とか盗賊には会ったことがないんだよな。飯は何とかなるし。それにどうしてちゃんと目的地の方向へ行っているはずなのに違うとこに出るんだろう」 藤内の冷静な指摘に三之助は首をかしげる。三之助は無自覚に行く方向を間違っているので、本人は間違っていると気がついていないのが物凄く厄介だ。 「三之助は時々ぼやっとしているから間違うんだ。私はしっかり地図を見て道を判断してから進んでいるぞ!!」 風呂の中で胸を張りながら左門が言うと、すかさず背後から首に腕がかけられる。 「どの口が何をほざくかこのバカタレがああああああっ」 「ぐぇっ、くるしい、くるしい、さくべ、やめっ」 左門の言葉が聞き捨てならなかった作兵衛が遠慮なしに左門を締め上げた。じたばたともがく左門を誰も助けない。自業自得とため息交じりに苦笑するのみだ。 「無事に帰ってきたからよしとしておいた方がいいんじゃないか、作兵衛。お前の体がもたないぞ」 風呂に入るときはさすがにペットたちは一緒ではない孫兵が一歩離れたところから見るように作兵衛を宥める。 「よくいなくなる毒虫を探すお前の気持ちが分かるよ孫兵」 「何を言う、皆、学園から出ることはないぞ!」 「でも数が多いからなぁ、探す苦労は同じだよな」 三年生はある意味探索力も備えられつつあるのかもしれない。 「はーっ、さっぱりした!」 「左門、ちゃんと頭拭け! 風邪引くぞ!」 「作兵衛は父ちゃんか母ちゃんみたいだなぁ」 すぱんと手ぬぐいが三之助の顔面に叩き付けられる。好きでやっているんじゃないと言わんばかりだ。 しかしそんなツッコミをしつつも、きちんと正座した左門の頭を半ば八つ当たりするようにがしがしと作兵衛は手ぬぐいで拭いてやる。 「うおおおおおおおおお、おお、さく、べ、ちょ、つよい、ぞ、ぉおおおお」 拭かれる衝撃に面白がりながら左門は声をあげる。 「お前にはこれ位が丁度いいんだっ」 「じゃあ俺が作兵衛の頭拭いてやるよ」 膝立ちの作兵衛を、立っている三之助が後ろから拭いてやる。 「じゃ、後で私が三之助を拭いてやろう!」 「おー」 わしわしと三人並んで頭を拭く。 「………………」 左門は楽しそうに頭を拭いてもらい、三之助は鼻歌まじりに作兵衛の頭を拭く。作兵衛は左門の真っ直ぐな髪を最後に手櫛でならす。 昨日とおとついは、四人で風呂に入り、一人で髪を拭き、一人で布団に入って寝た。 「どした? 作兵衛」 手が止まったことに疑問を感じて首をひねって級友を見る。 「……何でもないよ!! それよかほれ、三之助を拭いてやれ、風邪引くだろうが!」 「おう! 三之助、座れ!」 左門よりもかなり背の高い三之助なので、立ったままでは届かない。左門に言われるまま胡坐をかいて座る。 「あっ、三之助、ここどうした? 変な風に髪が切れてる」 「あー、どっか歩いてる時に枝に引っ掛けて、ほどけなかったから切った。結い上げてりゃ目立たんだろ」 「そうだな」 二人の会話を聞きながら、作兵衛は自分の髪を櫛で梳いた。二日間いなかった二人の声。 二人がいなくなるのはしょっちゅうあることで、一人になることもよくあることだ。何かの実習で班が分かれれば(まず滅多にないが)、何日か会わないことだってある。 けれど。 「そこで見つけた木の実がな、丁度時期で甘くてうまかったんだ! 何個か土産に持ってきたから後で食べよう」 「でももう寝る時間だろ? 明日の朝ごはんの時に食べないか?」 「それもそうだな」 「………………」 二人はのほほんといなくなった最中の話をしている。今、ここでのんびりと話しているが、先ほど藤内が指摘したように、一人で迷っている間、何があるのか分からないのだ。だのにこの二人ときたら。 「…………怒ってばっかりじゃ負けかなぁ……」 長いため息をつきつつ、作兵衛は髪をまとめて机に頬杖をついた。 「何がだ?」 「何がだ作兵衛?」 「何でもねぇよ」 柄の悪い口調でぶすくれて作兵衛は言う。 「ほらお前ら、もう寝るぞ! お前らは迷ってた二日間の補習があるんだから、ちゃんと寝とけよ!」 「おう!」 「布団敷くぞー」 「おう!」 もそもそと三組の布団を部屋に敷く。 左に左門、右に三之助。真ん中に作兵衛を挟んで。 いつもより布団を引っ付けて。 「……………………」 「よし、じゃあおやすみー!」 「おやすみー」 「おいこらちょっと待て」 さっさと布団を被って寝ようとする両脇の二人に作兵衛が低い声をかける。 「何だよ、作兵衛」 「早く寝ないと疲れがとれないんだぞ作兵衛」 「それは分かってるが、何でいつもより引っ付いてくんのお前ら」 すると、二人は作兵衛を挟んで顔を見合わせる。それから、至極当然のことを何故聞くのかと言わんばかりに作兵衛に言った。 「だって、二日間俺らいなかったろ」 「作兵衛が寂しくないように今日は近くで寝るんだ! 安心して寝ていいぞ!」 「──────」 作兵衛の顔が見る間に赤く染まって行く。 「誰が寂しがっているんだこのバカタレーーーーーーーーー!!!!」 本日三度目、最後の雷が落ちた。 三年ろ組はボケ壱号とボケ弐号とツッコミ。 ツッコミは苦労が絶えません。 |
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ブログに検索避けを5月下旬ほどにいれました。
RSSも切ってあるので、もうしばらくしたら検索に引っ掛からないようになると、思います。多分。 あと、ブログのデザインを変えました。続きを読む、と言うのをもっと簡単に開ける方がいいなと思いこちらのテンプレートをお借りしました。前回は黒っぽいのから今度は白っぽいの。 今回は何故か佐武村です。 虎若と照星さんと三木ヱ門です。 元アイドル組四年生は面白い子達だなと思いました。 こっちも途中まで。 「……てなことが、あったんだよ」
三木ヱ門が火縄銃の掃除をしながらすぐ側で同じように手入れをしている三年は組の佐武虎若に言った。 「そうだったんですかぁ……。道理で言いたがらないと。すみません」 「……もういいよ、別に。私もまだまだ未熟だったってことさ」 言葉ほど気にしていないようでもなく、それでも露骨に顔に出すでもなく、眉を寄せたまま、三木ヱ門は答える。 あの夜の数日後には酷い腫れ方をした頬の三木ヱ門のことは下級生にも知るところとなっていた。最初は実戦でおった怪我だと言われていたが、様子がおかしかった。 それからは特に何もなかったのだが、虎若が夏休みに自分の村へ帰るとき、火縄銃の名手である照星に教えを乞うために一緒に三木ヱ門も来た。その際、火縄銃の関係で利吉の名がでたとき、三木ヱ門は実に苦々しい顔を浮かべたのだ。そうすると、どうしてそんな顔をするのかと問い掛けたい。結局聞いた虎若に、三木ヱ門は村について落ち着いてから語った。 「でも、利吉さんがそんな……」 「不思議に思うかい、若大夫」 二人の前に腰を下ろし、自前の火縄銃の点検をしつつ、二人の手先を見ていた照星が問い掛ける。 「照星さん。……いえ、でも、確かにちょっと不思議には思うんですが、以前……似た利吉さんを見たことがあります。乱暴になったとか、そういうんじゃなくて……なんだろう、この間会った時はいつもの利吉さんみたく、話してたんですよ。なんだか、同じ利吉さんには思えないような……」 自分の中で覚えた違和感を巧く言葉にできないもどかしさを抱えながら、虎若は首をかしげる。 「田村君はどう思う?」 「私ですか?……私は、確かに初めてあった頃のあの人と、あの夜のあの人が同じ人とは、かなり落差があるとは思いますが……改めて考えると、無理はないのかも、しれないな、と」 「え?」 「……お前たちだって昔から戦場に出てただろう。あの独特の雰囲気に飲まれそうになることはないのか」 僅かに苦い顔をしながら言われ、虎若ははっとなる。 一年生の頃は大抵皆一緒にいたし、先生たちもついていた。何をやるにも一生懸命で、例え命のやり取りをしている戦場であっても、危険だと分かっていても、どこか切り離されたような、自分たちには被害は及ばないような気すらしていた。 けれど、物事が昔よりも遠くを見渡せるようになってきた今、自分たちはどれほど恐ろしい場所に身を置いていたのか、分かるようになってきていた。 あの、ただの言葉など通じない、人が人を飲み込むような空気。 「………………」 「利吉さんは、今の私たちとそう変わらない年からプロとして活躍していた。昔は情報収集や隠密の仕事だったんだろうけど、少し前から戦忍として働いていると聞いた。あの中で戦を続けていたら、どんな者でも飲まれそうになると思う」 「じゃあ、今の利吉さんは、戦に飲まれかけているんですか?」 「……そうだな」 三木ヱ門の言葉に虎若が照星の方へ向き直る。照星は軽く頷くと、目を少し伏せたまま続けた。 「だが、少し違うだろうな」 「え?」 「違う、とは?」 「私は山田利吉を知っているが、今の彼は確かに飲まれかけている。だが、彼はそれを制御する方法を知っているはずだ。けれど、田村君の話を聞くと、彼はあえて戦場の中に身を置き、飲まれているようにも思える」 二人ともぎょっと目をむく。何を好き好んで、と。 「彼は自分の仕事に誇りを持っている。それは一流たらんとする者としては立派だ。だが、その誇りゆえに、その忍びたる者、志す者に対し、己も含めて厳しくなっている」 「………………」 「彼は優秀で真面目だ。だが、力の抜き方を知らない。いや、知っていたが、それをしなくなった、と言う方が正しいかな」 「でも、それじゃあ、きつくないですか?土井先生みたく、神経性胃炎になりそうですよ!」 「……それは本人がどう感じているかによるだろう。今の彼は自分でそう望んでいるようだからね」 「そんな……」 |
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前回の続きなので乱太郎たちが三年生のときです。
今回は滝夜叉丸と三木ヱ門と綾部が出てきます。タカ丸もちょこっと。 彼らは今、六年生です。最上級生。 一人称があやふやですみません。 ところで私は滝夜叉丸の髪はなぜか黒のイメージがあります。 取り合えず途中まで。また後で書きに来ます。 27日追記。 六年生の長屋の近くにある井戸の側から、水を被る音が聞こえた。
季節は春。刻は夜。まだ空気は冷たい。 けれども、何度も何度も、その水音は聞こえた。水桶を井戸の中へと落とす。からからと滑車の音。少し間を置いてから先ほどとは違う、よどみなく回るけれど重さの感じる滑車の音。 がら、ぎし、がら、ぎし。 汲み上がった水桶を掴む人影は、それを勢いよく頭から被った。水は全身を濡らし、石畳を流れ、土へ滲みてゆく。衣服は鍛えた体に張り付き、長い髪は闇をはらんで黒く、肌を流れている。人影は水とわずかに吹く風に体を冷やされていながらもそれを意に介した風はなく、同じ動作で再び水桶を井戸へと落とした。 からからからから。 がら、きし、がら、きし。 ざばぁ。 「おやまぁ」 呆れた声が背後から耳を打つ。人影は驚く様子も見せずに振り返った。 「喜八郎」 「あんまり水ばっかり被っていたら、風邪引くよ。滝夜叉丸」 六年い組の綾部喜八郎は持っていた、よく乾いた手ぬぐいを人影に差し出す。人影、平滝夜叉丸は表情を変えずにそれを受け取った。 「あ、でも滝夜叉だったら引かないか」 「それはどういう意味だ喜八郎」 「さぁ」 相変わらず人を食ったような声だ、と内心思いながら、滝夜叉丸は濡れた顔を拭く。 「そんなに水を被りたいのなら川に行きなよ。水が勿体無いじゃない。それこそ君の名前と同じ場所に行けばいやになるくらい被れるよ」 「あのな……」 髪をいささか乱暴に拭き、手櫛で整える。普段なら指に絡まりもせず流れるが、今日は少し引っ掛かる。鼻頭に皺を寄せた。 「それで、頭は冷えた?」 「………………」 全身、厭になるくらい冷えている。おそらく他者が触れればぎょっとするだろう。けれども滝夜叉丸はそんな冷えをほとんど感じていなかった。暗がりの中で肌は不気味なほど青白いと言うのに、体の中は飽和するような熱を抱えている気分だった。 気分が高揚しているせいだろう。 ぞわぞわと落ち着かない、競り上がるような熱が未だ全身を支配している。けれどもここへ戻ってきたよりは幾分か治まった。平常な顔で同級生と会話が出来る。 「…………三木ヱ門はどうした」 「三木ならあっちの焚き火の前にいるよ」 長屋の角の向こうを指差す。ほの明るい光がちらちらと揺れていた。 「焚き火の前って……大丈夫なのか?」 「うん。何だかね、炎の前にいると、逆に落ち着こうと無理矢理構えるからいいみたい。ぶつぶつ何か言ってるよ」 「……それは本当にいいのか」 その様子を思い浮かべて、げんなりと肩を落とした。 「滝夜叉もあたってくれば。寒さなんて感じてないだろうけど、実際、体は冷えてるんだから。お風呂でもいいけど、行くんなら三木も連れてってあげてよ」 「お前は?」 「僕はもう入ってきた。あんなに汚れていたままでいるのは、耐えられないし」 「そうか」 答えて空を見上げる。月のない暗い昏い夜だ。 「僕、先に行くよ」 「ああ。────そう言えば、タカ丸さんはどうした」 年上の同級生を思い出す。先ほどから姿が見えない。 「タカ丸さんはとっくの昔に長屋に戻ったよ。あの人、結構図太いでしょ」 「……そうだな。図太いと言うか、鈍いと言うか」 この学園に途中編入して、今年でまだ二年のはずだと言うのに、長くこの学園にいる自分たちより、順応が早かった。技術や知識では劣るものの、斉藤タカ丸は精神面において、年下の同級生よりも強靭な反応を見せた。 「それでも多分、今日は寝れないだろうけど」 「ああ」 意識が霞みがかったようにぼんやりしているけれど、どこか奇妙に冴え冴えとしている。体は重いのに眠くない。会話しているはずなのに声が遠くに聞こえる気がする。 「……おい、喜八郎。部屋はそっちじゃないだろう」 ふらりと滝夜叉丸の前から去ろうとする喜八郎を呼び止める。けれど喜八郎は振り返らずに手をひらりと振った。 「もっと落ち着くところにいくから、滝夜叉、一人でごろごろしてていいよ」 「………………そうか」 それではせっかく風呂に入って綺麗にしたというのに意味がないだろうと思いながら後ろ姿を見送った。 「………………」 弱い風が頬を撫ぜる。やはり寒くない。だが、その感覚はおかしいのだと自覚はしているので、滝夜叉丸はもう一人の同級生の下へ足を運んだ。 「………………………………」 ぱちぱちと火の爆ぜる音がし、火の粉が風に煽られて踊っている。その焚き火をじっと見つめながら田村三木ヱ門は、膝を抱えてしゃがみ込みながら、外野が聞き取れぬような言葉を口の中でつむいでいた。 火の熱さが、先ほどまでいた場所を思い出させる。ともすれば、意識がそちらへ持って行かれそうになるのだが、それは間違っていると強く理性が働きかけ、現実へと引き戻していた。一人で暗いところにいる方が、飲み込まれそうになり危うい。 「……三木」 「………………」 「……おい、三木。三木ヱ門」 火に照らされた三木ヱ門の後ろ姿に滝夜叉丸は声をかける。案の定、反応はない。ため息を一つつき、わざとらしく足音を立て、ぶつぶつと呟く三木ヱ門の体を、横から蹴り倒した。 「うおあっ?!」 「一人で何をぶつぶつぶつぶつ言っておるんだ。お前は」 「……っ、滝夜叉丸!!いきなり何をする!!」 「ふん、陰気でじめじめと蹲っている愚か者を蹴り倒したんだ。何か悪いことでもあるか?」 「あるわ!!誰が陰気でじめじめだ、お前なんて濡れ鼠じゃないか!!」 「水も滴るいい男と言え!埃と硝煙だらけのお前がこの私を罵るなどお門違いもいいところだ!」 「何だと?!」 先ほどまでお互い一人でいたときとはがらりと雰囲気が変わる。一種の儀式と言うか、気付けのようなものだった。日常で繰り返される、飽きることのない喧嘩。それは非現実的にも思えるぬかるむような現実から、日のあたる当たり前の日常へ引き戻すような行為だった。 「まったく、そんな状態でいつまでもいるなど私には到底考えられない。さっさと風呂へ行くぞ」 「何でお前と!」 「私も御免被りたいところだが、今時分、風呂を長々と使っていては他の者に迷惑がかかるだろう。風呂が必要なのは私たちだけではないからな」 「………………」 さらりと言った言葉に三木ヱ門はぴたりと声を止める。 「私は心が海原よりも広いからな。汚れまみれで不潔なお前と、しょうがないから共に風呂を使ってやろう」 「いちいち一言多いなお前は!!だいたい────」 ざ、と風で木々の葉が鳴りざわめいた。 「──────っ!!!」 滝夜叉丸は目を見開き、まだ隠し持っていた愛用の戦輪を構え、振り返る。 暗闇の中から、ざくざくと、誰かが歩く足音が近づいてくる。本当にごく自然に、まるで散歩をしているかのような気軽な足音だ。だが、滝夜叉丸はその足音に冷や汗を流し、息を詰める。今まで側にいた三木ヱ門は滝夜叉丸から離れ、身を低くし、同じように闇を睨みつけるように構えていた。毛を逆立てる獣のように、殺気があふれ出す。 「──────ああ、君たちか」 焚き火の光が届かない闇の中から現れた人物は、その足音と同じように軽快な声を二人にかけた。 「あれぇ、綾部君、何してるの、こんな夜更けに」 夜の寒さに首をすくませ、渡り廊下をつま先で歩いていた斉藤タカ丸が、六年長屋の離れで穴を掘っている喜八郎を見かけて声をかけた。 寝巻き姿のままでざくざくと塹壕掘りをしていた喜八郎は、首だけが地上に見えている状態でタカ丸を見上げる。 「寝床を作っているんです」 「寝床?部屋で寝ればいいじゃない」 「いえ、部屋では寝れない気がして」 「ふぅん」 短い答えに、タカ丸もうなずいただけでやめた。理由は分かるからだ。でもそれで、何で塹壕なんだろう、とは思ったけれども口には出さなかった。 「そういうタカ丸さんはどうしたんですか。先に部屋に戻ったはずですが」 「厠に行ってきたの。春でも夜は冷えるねぇ。綾部君、そこで寝て風邪ひかないようにね。あっ、何か包まるもの持ってこようか?」 「いえ、いいです。穴の中って結構快適なんですよ」 あいにくと塹壕の中で過ごすことは滅多にないのでその気持ちは分からない。けれど、喜八郎が言うならそうなのだろうと、タカ丸は笑った。 その時、 「──────」 喜八郎が不意に動きを止める。普段から表情が変わらない彼だが、ぴくりとも動かないとまるで人形のようだ。怪訝に首をかしげたタカ丸が、声をかけようと身を乗り出した時、彼自身もまた、風に乗って伝わってきた気配にぞくりと身を硬くする。 「なっ──────」 首を巡らせる。治まって、いや、何とか鎮めていた感情を根っこから揺さぶられるような気配だ。忍術学園と言う場所に戻ってきてようやく気を緩めることが出来ていたので、その気配はするりと入り込んできた。気持ちが悪い。 喜八郎は穴の中から這い出て、一点のみに視線を向ける。先ほど、自分が立ち去った場所に。 「………………り、きち、さん」 瞬きもせず滝夜叉丸は相手の名前を呼んだ。 「こんばんは。いい夜だね」 名を呼ばれた相手は、夜の散歩途中で知り合いに出会ったかのような口ぶりでにこやかに言う。それは、何度も見かけた利吉の姿だった。それほど親しいわけではないが、全く話したことがないわけでもない。情報だけならば厭と言うほど耳にする。 忍術学園の三年は組の実技担当、山田伝蔵の一人息子で火縄銃の名手の忍者。どこの城にも仕えず単独でありながら名前の知れ渡るほどの腕の持ち主。忍術学園きっての名物三人組によく振り回され怒っている姿を昔はよく見かけたものだ。けれど。 誰だ、この人。 見知った笑顔のはずなのにまるで知らない人物のようだった。 「君たちはこんなところでどうしたんだ?──────ああ、六年生は今日は実習だったのか。お疲れ様」 言われる声も耳に知った声だ。けれど酷く違和感を覚えてならなかった。滝夜叉丸は戦輪を構えたまま答えない。顔を青白く染め、歯を食い縛る。離れた場所にいる三木ヱ門は低く唸っていた。 この人はこんな雰囲気を纏う人だっただろうか。同じ思いが胸中に浮かぶ。ここしばらくは以前のように見かけることも、あの三人と一緒にいることもなかったけれど、二人の知る利吉は、今目の前にいる人物と大きくかけ離れていることは確かだった。 こんな、隠そうともしない、薄ら寒い殺気の。 「いい夜だよな。月はないし、雲のおかげで星も少ない。風は……少し出てきたか」 視線を空に向け、明日の天気でも話すように利吉は続ける。 「でも、忍びの仕事をするにはうってつけの夜だ」 そう呟かれた時、滝夜叉丸と三木ヱ門はさらに硬く身構えた。利吉は空を見上げたままこちらを見ない。けれど、身に迫るような圧迫が、増した。 「なぁ」 ぞ、と切られるような寒気が全身を包む。 「今日はどれだけの戦野を見てきた?」 「………………っ!」 胃の中から何かがせり上がってくるようだった。ひたりと視線を向けられ、そらすことも出来ない。呼吸が乱れる。夜にさえかすかにうつる足元の影が縫いつけられたようだ。 「君たちの年ならもう何度も経験しているだろう。この辺りから高揚する気配が垂れ流しになっていて落ち着かないね。子供らもその手の気配には敏感だから、今夜は誰も外に出ていない。いけないよ。そろそろそういうものは隠すようにしないと」 今まさに自分たちを圧倒する気配を隠しもしていないのは誰だと言いたくなる。 利吉は滝夜叉丸の方へ踏み出した。ぎくりとする。手が伸ばされる。利吉は相変わらずにこやかな笑顔のままだ。 「……でないと、本当に世に出たらすぐに、取られるよ」 「──────」 命を。 「うぉああああああああぁああっ!!!」 「っ!!!」 首に伸ばされかけた手が一瞬で消えた。かわりに長い真っ直ぐな髪が舞い、硝煙の匂いが鼻を掠めた。 「おっと」 軽妙な動きで、利吉は襲い掛かってきた一撃をかわした。 「三木ヱ門!」 滝夜叉丸の前で地面に片手をつき、獣さながらに唸るのは三木ヱ門だった。 「──なるほど、田村君の方がまだ切り替えが浅かったのか。いい目に戻っている」 言われてはっとする。後ろ姿で表情は見えないが、その気配は敵と対峙する時と同じだった。滝夜叉丸は大分心落ち着かせていたせいか、利吉の遠慮のない気配に対し、無防備なところがあった。内心混乱していることは隠し切れなかった。 「大丈夫、何もしはしないよ、田村君。ただちょっと君たちの気配が気に障ってね」 「な────」 利吉が、にい、と口を歪めて笑う。三日月のような口元。 「そんな状態で、こちらに、出てくるな」 「──────」 離れていると言うのに首筋に刃を突きつけられたようだった。 「その程度のことで平静を保てないのは未だ覚悟がたりないからだ。……もっともここにいたらそうならざるをえないが、な」 「……どういう、意味、ですか」 「分からないなら分からなくていい。でもね、覚悟しておいで。こちらは君たちが考えているより遥かに暗い。それこそ、自分たちにすべを教えた人たちを恨むほどにね」 「………………」 「弱い者は、死ぬだけだ」 暗い昏い闇の底のような笑顔。 「────だったら!!」 突如、三木ヱ門が声を張り上げた。 「だったら、あんたは覚悟ができていたと言うのか!偉そうに能書きを垂れるほど忍びとしてできているとでも言うのか!!」 得体の知れないものを目の前にしたときのような心の震えを押さえ込み、気圧されぬよう拳を握る。 「全てを見てきたかのような講釈垂れるほど、あんたは────!」 「三木ヱ門!!」 滝夜叉丸の声が聞こえたのは、三木ヱ門の体が地面に叩き付けられてからだった。 遠慮のない拳が頬をとらえ、歯を食い縛る暇もなく三木ヱ門は殴られた。滝夜叉丸は一瞬遅れて飛び退る。 「未熟な自分を正当化しようとするよりはよっぽどできているよ。……何も知らずただ自分の気持ちを優先するだけの餓鬼どもよりは、ずっとね」 「………………」 「それじゃあ、ね。よい夢を」 「………………っ」 地面に伏したまま動けない三木ヱ門の頭をゆっくりと撫でて、利吉は殊更のんびりとした足取りで、その場から去った。 「──────………………」 どさ、と滝夜叉丸が膝を付き、腰を落とした。立っていられなかった。呆然と視線を投げ出している。 「滝夜叉丸、三木ヱ門!」 その声に滝夜叉丸は一瞬びくりと肩を震わせ、現れた学友に、焦燥した顔を向ける。 「……喜八郎」 だが、声は意外とはっきりとしていた。 「何。誰か、いたね」 後からついてきたタカ丸が二人の前方を見た。 「………………利吉、さんが」 地面についている手が僅かに震えていた。喜八郎は気づかぬ振りをして滝夜叉丸の背中に手を添えて立たせた。 「……利吉さん?……さっきの気配が?」 「ああ……」 離れてあの気配を感じていた喜八郎にはにわかに信じがたかった。実際に目の前にしていた滝夜叉丸たちでさえ、疑うほどだったのだから、当然かもしれなかった。 「田村君、大丈夫?……うわ、酷いなぁ……」 倒れていた三木ヱ門をタカ丸が助け起こす。幸い歯は折れなかったようだが、口の中を盛大に切ってしまったらしく、血が流れていた。 「う……」 「あ、ごめん、痛かった?」 顔を歪めた三木ヱ門にタカ丸が謝る。しかし三木ヱ門は首を振り、それから、べっ、と口の中にたまった血を吐き出した。うつむき、歯を食い縛る。 「………………ちく、しょう……」 「………………」 喉の奥から絞り出すような声に答えた声はなかった。 ----------------------------------------------------------------- 利吉さんの八つ当たり。 |
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落乱の利吉さんと小松田君の話です。
オリジナルの設定が入り、原作のキャラのイメージが壊れてしまう恐れがあるので、そういった設定が苦手な方はお引き帰しください。 真下の記事には、この話の設定が幾つか書いてあります。 忍びは戦うにあらず。
ただ、目的を達成することのみ、心せよ。 そのためには、卑怯と罵られる戦法でも、残酷だと言われる拷問でも、臆病とそしられる退却も厭わない。 誰かを見捨ててでも、許しを請う者に無慈悲に刃を振り下ろしてでも、時には裏切ってでも。 けれど、忘れることなかれ。 忍びに一番必要なのは正心だと言うことを。 忍びは心に 「あ、利吉さんだ!」 「利吉さーん!」 「利吉さん、山田先生に会いに来たんすかぁ?」 一年の時から仲の良い三人組が、入門票にサインを書いてやってきた利吉に気がついた。 「やぁ、相変わらず元気だな、三人とも」 「利吉さんはお仕事だったんですか?」 利吉はいつもここへやってくる時と変わらない旅装束だったが、心なしか、少しやつれているように見えた。けれども、疲れている様子は微塵も見せない。 「そうだよ。また次の仕事があるけど、その前に父に会っていこうと思ってね」 「山田先生だったら今は職員室じゃないですかね」 「そうか、ありがとう」 三人に背を向けて、学園の中へと進むその後ろ姿は、よく見た光景だ。けれども。 「………………」 「今日はふつうだったねぇ」 「ああ」 しんべヱの呟きに二人がうなずく。 「前の時は、ちょっと怖かったよね」 「仕事中だったからなぁ。先生もしょうがないって言ってたし、ま、分かる気もするけどね」 「でもさ、昔は仕事中でも、こわくなかったよねぇ」 時折、子供たちが利吉の仕事に首を突っ込んでしまうことがあった。引っ掻き回しつつも、子供たちは子供たちなりで仕事を手伝ったり事件を解決していた。その都度、利吉は怒ったり子供たちの雰囲気についていけなくなることもあったが、大抵は、すべてが終われば笑顔で別れている。 けれども、以前、彼の仕事の最中に、またもや子供たちが乱入した時だ。その時の利吉は仕事の重要性からか、常になく緊張感をはらんでおり、一緒にいた教師の山田や土井も、あまり彼の邪魔にならないようにと子供たちを言い含めていた。 それでも何かしら起こすのがは組の子供たちだ。利吉は、子供に手をあげた。 子供を叱るために拳骨を入れることはよくあることだ。けれども利吉は、普段のように怒鳴り散らすでもなく、色のない表情で子供を殴った。大人が子供を叱る、してはいけないのだと諭す、戒めの行為ではない。邪魔をした者に対する、純然たる怒りだった。 「……少し、近寄りがたくなったかも、だよね。利吉さん」 「でもさっきみたいにちゃんと話してくれるときもあるよねぇ」 「難しい年頃なんだよ、利吉さんも」 「きりちゃん、それこどもが言う台詞じゃないよ」 乱太郎の言葉にしんべヱも言ったきり丸も苦笑した。 その時は、そんな言葉で片付けられるくらいだと思っていた。 誰しもが通る、不安定な精神の時代の経験。 時が経てば落ち着き、またいつものように怒りながらも相手をしてくれる。そう誰しもが思っていた。 |
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