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落乱の利吉さんと小松田君の話です。
オリジナルの設定が入り、原作のキャラのイメージが壊れてしまう恐れがあるので、そういった設定が苦手な方はお引き帰しください。
真下の記事には、この話の設定が幾つか書いてあります。



 忍びは戦うにあらず。
 ただ、目的を達成することのみ、心せよ。
 そのためには、卑怯と罵られる戦法でも、残酷だと言われる拷問でも、臆病とそしられる退却も厭わない。
 誰かを見捨ててでも、許しを請う者に無慈悲に刃を振り下ろしてでも、時には裏切ってでも。


 けれど、忘れることなかれ。
 忍びに一番必要なのは正心だと言うことを。





 忍びは心に




 「あ、利吉さんだ!」
 「利吉さーん!」
 「利吉さん、山田先生に会いに来たんすかぁ?」
 一年の時から仲の良い三人組が、入門票にサインを書いてやってきた利吉に気がついた。
 「やぁ、相変わらず元気だな、三人とも」
 「利吉さんはお仕事だったんですか?」
 利吉はいつもここへやってくる時と変わらない旅装束だったが、心なしか、少しやつれているように見えた。けれども、疲れている様子は微塵も見せない。
 「そうだよ。また次の仕事があるけど、その前に父に会っていこうと思ってね」
 「山田先生だったら今は職員室じゃないですかね」
 「そうか、ありがとう」
 三人に背を向けて、学園の中へと進むその後ろ姿は、よく見た光景だ。けれども。
 「………………」
 「今日はふつうだったねぇ」
 「ああ」
 しんべヱの呟きに二人がうなずく。
 「前の時は、ちょっと怖かったよね」
 「仕事中だったからなぁ。先生もしょうがないって言ってたし、ま、分かる気もするけどね」
 「でもさ、昔は仕事中でも、こわくなかったよねぇ」
 時折、子供たちが利吉の仕事に首を突っ込んでしまうことがあった。引っ掻き回しつつも、子供たちは子供たちなりで仕事を手伝ったり事件を解決していた。その都度、利吉は怒ったり子供たちの雰囲気についていけなくなることもあったが、大抵は、すべてが終われば笑顔で別れている。
 けれども、以前、彼の仕事の最中に、またもや子供たちが乱入した時だ。その時の利吉は仕事の重要性からか、常になく緊張感をはらんでおり、一緒にいた教師の山田や土井も、あまり彼の邪魔にならないようにと子供たちを言い含めていた。
 それでも何かしら起こすのがは組の子供たちだ。利吉は、子供に手をあげた。
 子供を叱るために拳骨を入れることはよくあることだ。けれども利吉は、普段のように怒鳴り散らすでもなく、色のない表情で子供を殴った。大人が子供を叱る、してはいけないのだと諭す、戒めの行為ではない。邪魔をした者に対する、純然たる怒りだった。
 「……少し、近寄りがたくなったかも、だよね。利吉さん」
 「でもさっきみたいにちゃんと話してくれるときもあるよねぇ」
 「難しい年頃なんだよ、利吉さんも」
 「きりちゃん、それこどもが言う台詞じゃないよ」
 乱太郎の言葉にしんべヱも言ったきり丸も苦笑した。
 その時は、そんな言葉で片付けられるくらいだと思っていた。
 誰しもが通る、不安定な精神の時代の経験。
 時が経てば落ち着き、またいつものように怒りながらも相手をしてくれる。そう誰しもが思っていた。

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