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数年前に書いてそのまま放置していた話その2。
今度はアンクロゼだと思う話です。……だと思う?
こっちは冒頭で止まっていた……。
続きは書けたら書きたいです…。(そういって書いたためしがない)






 「え?」

 ある日唐突に告げられた。
 自分が仕えている君主の誕生日がもうすぐだという事を。

 「………と言う事はあと3日、なのか?」

 何やらまわりが浮き足だったように、どこか秘め事をしているような気配に気がついて、よく知ったここにきてからの同僚に声をかけた。
 その同僚のエティエルは、一瞬驚いたような顔をしてから、苦笑した。そうして事情を説明してくれたのだ。

 「そうよ。もう結構前から用意してるんだけれど、本当に気がつかなかった?」

 「………ああ。ここ最近、何やら周りが落ちつかない感じだったことには気がついていたが…そんな事をしているなんて知らなかった」

 率直な意見を述べれば、あなたらしいわね、と嫌でない風に微笑まれた。

 「多分皆、貴方ならもうとっくに知っているだろうと思っていたのでしょうね。それで、知っているから自分達がしている事を見て見ぬふりをしているのだと思ってたから、何も言わなかったんだと思うわ。私もそうだったし。でも貴方だったら、戦争中に何を浮き足だっているのだと、怒って止めていたかしら」

 「………」

 少しバツが悪そうに頭を掻く。確かに常であるのならば、この戦時中、パーティーなど許さなかっただろう。いつ列強諸国が攻めこんでくるやもわからぬし、何よりそんな贅沢は財政を圧迫する。………昔自分が治めていた国は、酷い財政難で苦労したため、それが骨身にしみているのだ。
 でも、それも時と場合だ。
 今回のそれは、自分達の君主のための、誕生日パーティーなのだから。

 「確かに、私事でのパーティーを上層部が頻繁にやることなど、ただの浪費でしかない。しかし、今回の場合は別だろう。察するに、それほど派手にはせず、ささやかなもので、何よりその対象はロゼだろう?」

 魔族と人間の血をひく君主の名を告げる。
 君主の誕生日パーティー。それは他で言えば盛大に、国を上げてやる所もあるだろう。それをささやかに、と言うのは奇妙ではあるが、別段ささやかなものしかやれぬほど財政難と言うわけでも、君主を慕うものが少ないというわけでもない。その、君主自体が慎ましやかなのだ。
 王族等に見掛ける、力ある人の上に立つ者がやる贅沢三昧などにはまったく興味がないのだ。それよりも、自分で作った菓子や茶で、仲間達と色んな事を語りあう方が好きなのだ。
 炊事洗濯料理ができて面倒見もいい。平和な世であればきっと、実にいい奥さんになっただろうとすらいわれている。
 だが。

 「彼女は少し、根をつめ過ぎだからな。そういった息抜きをするのは良いと思う。私も賛成だよ」

 「有難う。じゃあ、貴方ももちろん参加するでしょう?と言うか既に参加するものだと思っていたのだけれど、問題ない?」

 「ああ。それまでに仕事を終らせてしまえばいいからな」

 頼もしく笑って見せれば女性も笑う。
 実をいうと、魔族にはあまり誕生日を祝うと言う習慣がない。それは、とてつもなく長い寿命のせいだ。長く生きているので自分が生まれた日や歳など、結構どうでもよくなってきてしまうのだ。それでも、まだ歳若い魔族、特に人間と関わり合いのある者達の間では、誕生日を祝うこともある。
 今回の場合は、それと、先ほど言ったように、一生懸命に物事を成そうとし、たまに無茶をしすぎる帰来のある君主を、一時でも休ませようとする仲間の計らいだ。

 「それじゃ、お互い頑張りましょう。あ、それから、誕生日プレゼントはなるべくお金のかからないものにしてね」

 幾ら誕生日のプレゼントだとしても、堂々と高い物を軍内の人間同士であげたり貰ったりするのは、少々問題がある。位の高い者から下の者へ、『褒美』という形でならば問題はないのだが。
 が、しかし、エティエルの言葉に男は凍り付いた。

 「じゃあね、アンクロワイヤー」

 それに気がつかずに、エティエルは濃緑の艶やかな長い髪を翻して自分の仕事へと戻っていった。
 残されたのは、オレンジがかった金の短髪の、背の高い男。

 「………プレゼント」

 言葉にして、アンクロワイヤーは真っ青になった。











 そうして当日。

 「おめでとう、ロゼ!」

 「おめでとさん」

 「おめでとうございます!」

 エティエルに呼ばれて城のホールの一つにきてみれば、様々な祝いの言葉の雨。今日の主役は驚いたように目を丸くしたが、それから照れくさそうにはにかんだ。

 「………有難う」

 今日は午後からそう急ぐ仕事のない者には皆非番を出した。警邏や警備の者達にも交代で暇を出す。パーティーに直接参加する事はないけれど、皆、思い思いの場所と相手とで飯を食い、酒を飲み交わし、歌を歌う。それぞれがそれぞれで、自分達の君主の成長に杯をかかげていた。

 「いやーしかし、誕生日パーティーなんて妹の8歳の誕生日祝って以来だな。ここんとこ忙しくて、んなことしてる暇ぁ、なかったしな」

 バイアードは若草色の少しくせのある長い髪の頭に手をあてて、苦笑しながらいった。相次ぐ戦闘で、あるいは話し合いの末の和解で、着実に領土を広げていって。それはそれは多忙な毎日だった。

 「大陸半分ほどまできて落ち付いてきましたから、やっとパーティーを開くことができましたね」

 エティエルの言葉に、バイアードは頷く。

 「何だか最近皆で何かしてるなぁと思っていたら、こういうことだったのね」

 「おう!アンタって結構勘の鋭いとこあるから、ばれないようにするの大変だったんだぜー」

 くすくす笑うロゼに、屈託な笑顔で答えるのはミュールだ。

 「でも本当に有難う。とても嬉しいわ。………私も、誕生日を祝うのは妹の誕生日を祝って以来だから………本当に久しぶり」

 数年前に亡くなった血の繋がらない、だけれど彼女の大切な妹のことを思い出して、寂しげに、それでも愛しげに笑った。

 「けど、私なんかの誕生日を祝うためにパーティーなんて、お仕事の方とか大丈夫なの?」

 「………アンタな。こんな時にまで仕事の心配をしてどうする」

 イフが横から、呆れたようなため息まじりの声をかけてきた。それには周りの者も苦笑するしかない。

 「そうだぜ、こんな時くらい仕事の事なんか忘れろって!ぱーっと騒がなきゃ損だぜ?」

 「それに仕事の方なら大丈夫。ちゃんと皆、終らせてあるから」

 バイアードのもっともな台詞と、エティエルの信頼できそうな言葉に、ロゼは少し悩んでから、そうね、と笑った。実際、仕事はちゃんと終っている。否、終わらせた。

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