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途中まで書いて挫折した。
邪雪ですよ。
読んだことある人はある。


 珍しく男が眠っていた。
 いや、何かしら起きればすぐにでも目を覚ますのであろうけれども、彼女が傍にいるときはいつもよりも穏やかに眠っていることが多い。彼女もそれは嬉しく思っていたが、彼女が起きてもこの男が目を覚まさないことは稀だったので、少しばかりの驚きと喜びを感じていた。

 「………………」

 ここで声をかければおそらくすぐに目を覚ますだろう。それはもったいない。もしかしたらもう既に目が覚め、狸寝入りをしているのかもしれないが、それでも無防備に近いその寝顔を彼女にさらけ出しているのは貴重なので、彼女はそれを有難く堪能することにした。

 「………………」

 自然と笑みがこぼれる。
 いつもは無表情か、厭なくらいに誰かを見下した嘲笑を浮かべていることがほとんどだ。彼女が相手の場合でも、にやにやと、まるで獲物を狙う狩人のような笑みを浮かべていることがある。もちろん、いわゆる愛情の裏返しとでも言うべきものらしいが、それがまた実に楽しげなので、彼女はたまに手加減無しの属性攻撃を食らわせてしまいたくなる。実際に食らわせているが。この男は笑うと奇妙に品がなくなることに自分で気がついているのだろうか。

 「………………」

 ため息をついた。呆れと日々の苦労を思い出してしまったからだ。黙っていれば整っている造作だというのに。
 とは言え、彼女は男の見てくれを好いたのではない。では中身なのかと言えば、これもまた誰かに誇れるような中身でもない。
 実力はある。何にしても優秀であり、冷徹で冷酷で。この辺りはそれを受ける側の解釈にもよる。優しいだけが褒められることではない。
 おそらくは魔族の長となるには十分な人物ではあるだろうけれど、完璧でも完全でもない。上に立ち、束ねる力はあるが、誰かを惹き付け従えるカリスマは、あるようでない。甘く未熟でもある。それも、それ故に愛されるのではなく、失望されるものだ。

 「………………」

 彼女の前の男は相変わらず静かな静かな寝息を立てて眠っている。穏やかな、おそらくは彼女ともう一人にしか見せないであろう顔だ。
 彼女は微笑んで身を寄せた。

 そんな言葉で表せるもので男を好いたのではない。
 未だにこの男の行動や考えに共感できぬものもあるし止めたいこともある。この男のすべてを好いているのではない。

 そして彼女自身も、誰かに誇れる者ではない。周りは褒め称えてくれるが、その半分以上は、彼女が持つ力ゆえだろう。この力がない、ただの、ここへ来る前と同じ、ひとりの娘だとしたら、反応は違っただろう。それは卑屈になることはない。事実で受け入れるべき真実だ。
 それに、この力を持っていても彼女は、なにもしていない。
 全てを見通す力を持ちながらも、なにもできない。
 ただ、それでは駄目だと、違うのだと叫ぶだけで、なにもなしてはいないのだ。

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