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サトヒロで30+16=46のお題

9:手加減なし!

今回もサトヒロと言うより新生魔王軍。
くっついてもいない。



 ────997年、10の月、8の日。
 今日は朝からいい天気だ。
 ネウガードでは珍しく青空が広がっている。こんな晴れた日はさっさと仕事を終わらせて、のんびりと趣味に没頭していたいところだが、戦時中なので仕事は山ほどある。君主であるヒロを筆頭に傭兵三人組もあちらこちらへと走り回り指示を飛ばし書類を仕上げて続きを済ませる。兵士の訓練、防壁の補強、やることはつきない。
 それでも時間を見つければなるべく共に食事をしたり休息を取ったりしていた。最初ヒロは渋い顔をしていたが、少しでも話をすることはお互いの理解のために不可欠だと、半ば説教される勢いで三人に言われ、それを受諾した。結果、いやいやだったのが今では当たり前のようになっている。

 さて、今日は朝からいい天気だ。
 仕事が山ほどあれど、無理にでも空いた時間を作り出す。やることがつきなくともつきさせるのが望ましい。何より仕事仕事ばかりではそろそろ鬱憤やストレスが溜まってくるものだ。
 そして。

 「だからアンタは分からず屋だって言うんだー!!!」
 「お前に言われる筋合いなどない!!お前こそそのふざけた態度をどうにかしろ!!!」
 相手を罵る大声と、城内に響き渡る打撃音と金属音、衝撃で壁がびりびりと震えている。
 「俺のどーぉこがふざけてるってんだ!」
 「全てだ全て!!お前の存在そのものがふざけている!!」
 「酷ェ!!そこまで言うか普通!!」
 「事実だ!!」
 まったくもって加減などない殴り合いと罵り合いが繰り広げられていた。やっているのはここの君主と親衛隊長だ。何が原因だったか定かではないが、仲間割れでもしているのかと疑いたくなるほどの遠慮のなさだった。
 だが、誰一人として止める者はいない。止めたくても止められない、下手をすればこっちが被害を受ける、と言うのが主だった配下の兵の意見だが、赤毛の軍師はまるで聞こえてないかのような落ち着きっぷりで書類をまとめており、金髪の特攻隊長に至ってはその場を通り掛っても『建物を壊さんようになぁ』と一声だけかけて兵士の訓練に行ってしまった。
 ちなみに殴り合い真っ最中の二人は律儀にその言葉を守って中庭に移動していた。



 ところで今日は朝からいい天気だ。
 久しぶりに城下町まで行って、物資が少ないとはいえ開いている店の、それも嗜好品の部類に分けられるであろう紅茶の葉を選びに選び抜いて買ってきた君主の幼馴染のメイミーが、一服の時間としている時間までに戻ってきて、皆に紅茶を用意しようとしていた。
 お湯を沸かして茶器を温め、紅茶の葉を計ってお湯を注ぐ。葉を踊らせながら待つこと暫し。
 突如、ドゴォオン!!!と、城全体を揺らすかのような爆発音が響いた。
 「きゃああっ?!」
 テーブルの上に載っていた茶器がガチャガチャと揺れた。思わずメイミーは悲鳴を上げたが、次いで窓から見えた煙にぎょっとした。黒煙だ。慌てて廊下に飛び出たところで、歩きながら書類に目を通すチクと鉢合わせをした。
 「どうしたの、メイミー」
 「あっ、チク! さ、さっきの音、何?!」
 「さっきの?」
 「そうよ、気がつかなかった?! 凄い大きな音で揺れたのよ! 窓から煙まで見えたし!」
 そこまで言われて、チクは、ああ、とうなずいた。
 「大丈夫、いつものことだから」
 「……いつものこと?」
 あっけらかんとして言われたので、メイミーは首をひねる。
 「うん。そういえば、メイミーが来た、ここ2、3日はやってなかったけどね」
 「何、それ」
 訝しげに眉を寄せると、廊下の向こうから誰かがやってきた。少し焦げ臭い。
 「メイミー、チク」
 「ヒロ! それに……サトーさん?! どうしたんですか、真っ黒!」
 現れたのはヒロだった。その少し後ろには何故か煤だらけのサトーがいた。髪や服があちこち焼け焦げて、酷く仏頂面をしていた。
 「その様子だと、また?」
 「ああ、私の勝ちだ」
 チクが半ば苦笑して問いかけると、ヒロは得意満面ににやりと笑って胸を張った。サトーはぶすくれた顔のまま黙っている。
 「ヒロの勝ちって、もしかしてさっきの、ヒロ? あの大きな爆発!」
 「ああ。中庭でな、こいつとやりあっていたんだ」
 「やりあっていたって……ヒロ、ちょっと手加減しなさ過ぎなんじゃ……」
 幼馴染の強さを知っているメイミーは、後ろのサトーの強さも知っているが、彼の現在の惨状を見ると、どうみてもそう言いたくなった。
 「いや、そうじゃないと経験にならないからな。チクだと力の差がありすぎるし、ザキフォンもいいんだが、あいつ、こいつより本気をだそうとしないんだ」
 「力の差がありすぎて悪かったですね」
 「だったらもう少し筋力をつけろ。サトーは私相手でも加減をしてこないからな、なまった体にはいいんだ」
 「つか、手加減なんざしたらこっちが危ねぇだろ。アンタ、俺にだけ容赦なくねぇ?」
 今まで黙っていたサトーがむっつりとしたままヒロに問いかける。
 「お前が全力でくるからだ。ならば私もそれに応えなければな」
 至極楽しそうに笑うヒロに、サトーはげんなりとため息をつくばかりだ。
 「……つまりは、お互い容赦しないから、加減も出来ず、全力でやりあうしかないと。でもまぁ、致命傷にならない程度でやめるから、一応は加減してるのかな?」
 「そうだな、たまに止めをさしたくなるが、こんなのでも一応、うちの親衛隊長だしな」
 「こんなのってなんだこんなのって。相っ変わらず可愛くねぇ姫さんだぜ……」
 「やかましいぞお前」
 メイミーたちの方を向いたまま、ヒロは笑顔でサトーの足を踏んづけた。
 「いってぇ!! 何すんだ姫さん!!」
 「一言多いからだ。口は災いの元、とか言う諺か? あるのだろう、ムロマチに」
 「あるけどだからって踏むなよ!」
 再びここで手加減なしの喧嘩が始まりそうになり、メイミーがオロオロと止めに入ろうとしていると、チクが見終わったらしい書類を綴じて言った。
 「喧嘩するほど仲がいい、とかいう言葉もあるけど、そろそろやめにして休憩とりませんか。いい加減、こっちも飽きてきましたし」
 「飽きてきたって何だ飽きてきたって」
 チクの笑顔にヒロとサトーが揃ってツッコミを入れた。
 「姫様は先に行っててください。僕はザキフォン呼んできますから。サトーは取り合えずその格好をどうにかしてから来ること」
 「そうだな」
 「あいよ」
 確かにこのままここで言い合いしていても変わらないので二人は言われたとおりに行動する。二人を見送ってから、チクがメイミーに言った。
 「それじゃメイミー、紅茶の用意、お願いするね」
 「え? あ、ええ。今日はいい葉が入ってたの、楽しみにしてて」
 「うん、メイミーの紅茶を飲んだら、本当、他の紅茶は飲めないよ」
 「ありがと。それじゃ、また後でね」
 身を翻してお茶の用意をすべく戻っていったメイミーも見送り、チクは外にいるザキフォンの元へと向かった。おそらくは時間を察して、そろそろこちらへ来ているはずだから、どこかで鉢合わせするだろう。

 今日は朝からいい天気で、お昼を過ぎてもいい天気だ。
 こんな日は、皆でのんびりするのが一番いい。




チクとメイミーは某方のイラストを意識しました。
というか勝手に書いてすみません……!!(平伏せ
その某方にささげる勢いで。良ければ貰ってくだされHNBさん。

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